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どこでもベッド(前編)

2018.08.11

姉はいったいいつ眠っているのか。

どうやら普段夜中は起きているらしい。ほれ、“ゲージツカ”だからね。創作活動は夜中と相場が決まっているらしい。ま、これとて、姉の生活の実態を把握はしてないから、案外が~が~眠っているのかもしれないが。

これだけははっきり言える。どこでも眠れるのだ。しかもあっという間に落ちる。
冗談よね?という早業である。

新幹線の発車を知らないことがある、なんと飛行機の離陸を知らないこともある、そうな。あり得ない。歯医者さんの治療中も口を開けたまま眠ったことがあるらしい。緊張感無さすぎ、と言われたそうな。緊張感云々の前に大分恥ずかしい。

録音作業をするスタジオでもそれは発揮されているらしい。ピアノの下やドラムの下に敷いてあるカーペットの上、どこでもOK。コンサート会場でも、リハーサルが終わり本番までのちょいの間、1列目の椅子席と舞台の間でグースカ眠っていることがあるそうだ。

例えば、うちに来て、「こんにちは~!あ~フローリング気持ちいいっす~」と言いながら、床に寝そべる。何しに来たのかなあ~、その場所邪魔なのよね~、と思い「ねえ、そこじゃなくてもうちょっと隅に行くか、ベッドで寝てよ」と声を掛ける。返事が…無い。え?聞こえてない?「ねえちょっとってばぁ~」あれ?え?しかと?

いえいえ、眠っています。冗談のようだけど。すでに眠りに落ちているんですよー、これが。

本人曰く、床が硬い方が眠りやすいのかも~、と。関西方面の仕事に夜行バスで行くのもどうやらケチっているのではないらしい。乗ったら即寝だから、「ベッド付きで移動出来てさ、起きたら朝だもん、さいこー!」と至って無邪気である。
寝返りを打つとか、ああ、寝られない、とか、足がきつい、とか感じる前に眠っちゃうらしい。めでたい。

だから彼女はいつも元気なんだなあ。
生きるための本能でどこでも眠れるようになっているんだなあ。

しかしながら、せっかくの特技も時と場合により…なのだ。
うちは二週間に一度、母のために内科のK先生が往診に来て下さる。父の生前からお世話になっている地域の名ドクターだ。名ゴルファーでもある…らしい(本人談)。スリッパを玄関に出し、おしぼりなど用意し、母はソファに座ってスタンバる、というのが通常のルーティーン。そして「ピンポ~ン」と玄関チャイムが鳴り、「は~い、どうぞ~、よろしくお願い致しますぅ~」という寸法。私が居ない時はその役を姉に任せてある。と言うか、任せざるを得ない。不安極まりない。

ある往診日、先生が私にこうおっしゃった。「この前来たらね~、ピンポンして返事なかったからさ」この時点で私はすでに冷や汗噴出。「でもカギ開いていたから入ったんだよ」
冷や汗ダブル増量。

「でね、二階に上がって部屋に入ったらお姉ちゃん、ママのベッドでぐーぐー寝てたんだよぉ~」「は、はぁ~?すっすっすみません!」
冷や汗トリプル増量。

あとから母に聞けば、先生がいらっしゃる時間が近づいてきたので、母は声を振り絞って「万里子!まーりこっ!」と何度も起こそうとしたらしい。診察して頂く定位置のソファに既に腰かけていたため、ピンポンが鳴ってからは手当たり次第の物を姉に向かって後ろ向きに投げたそうだ。それも結構すごい。が、努力虚しく、先生登場。姉は爆睡の巻、ということだったらしい。本当に申し訳ない。

しかし、さすが名ドクター。インフルエンザの予防接種をしに見えた時も、母と私に接種を済ませ、「お姉ちゃんは今日いないの?あ、お姉ちゃんはインフルエンザ逃げちゃうよね。必要無い無い!」
毎日沢山の患者さんを診ていらっしゃるから観察眼鋭い!良―くお分かり。
と感心している場合ではなかった!今を去ること10年前、姉はもっとびっくりの事をやらかしてくれたのだ。

~後編に続く