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不動産騒動記その1(後編)

2018.09.01

さて、内覧の日、現地集合となり、私と姉はうちから車で向かった。姉は待ち合わせの時間を10時ね、と言えば10時ぴったりに現われる。少し早めに行って相手を安心させよう、進捗状況を聞いておこう、なんていう気は鼻っから無い。ま、そもそも私に一任しているから物見遊山なのだ。ということで、姉が来るのをガレージで待ち受け、間髪入れず出発、極至近距離だから話す間もなく現地についた。今思えば歩いて行けばその間話ができて良かったものを、何故だか物件巡りは車で、と勝手に思い込んでいた。これが失敗の始まりだった…

さて、物件に到着すると、いらっしゃいましたよ! 家の前に直立不動で佇んでいるМさん!

近付いてくるのがこちらの車とわかると90度にお辞儀をし、こっちこっちとガレージに車を入れるよう誘導する。動作もいちいち丁寧で、かつちょいオーバーアクション、なんとなく不器用そうで、誘導しながら何かにつまずき、漫画みたいに転ぶんじゃないか、という変な期待までさせる人物である。

そしてついに家の中へ。重厚な造りの家。玄関入るや否や、Mさんは、「おぉー、こ、これは坪単価かなりかかっているお宅です」と驚いて見せる。そーゆーところは、案外上手、いや、ほんとに初めて見て感心している風もあり。

自ら探して写真や間取りを見て気に入ったのに、買わせようとしたらケチつけるのだ、と意気込んでいる私もワケわからないが、とにかく細部をチェックして、マイナス点を指摘しなければという決意で踏み込んだ。もしも買うことになったら、マイナス点を羅列して値引きの交渉ができる。猛烈に後悔していたのは、私がそういう意気込みでいることを姉に知らせる時間がなかった点である。

Мさんときたら、「あ~、これはなかなか、ゆったりしている物件でございますね。」

二階の居間に上がれば「おぉ~!明るい!」とまぶしそうな顔までして畳みかけてくる。

「まあそうですね~、でも、」と言いかけた私の言葉が、例によって四方八方に通る姉のでかい声で打ち消された。

「いいじゃな~い!!あらぁ~素敵!!あっかるいったらないじゃない!」

ガ~ン。あーたどっち側よ?不動産屋の回し者っ?いきなり褒めないで~!

ほれ、ちょっと粗でも探してさ、渋らなきゃ~、と心の中で思っている私。

「ほんとでございますね」「これはなかなか素敵な作りでございます~」とМさん、すかさず合いの手。

そりゃそうだ、今は家具が置いてないから広く感じるし、カーテンもないんだから明るく感じるさ~、なんていやらしく考えているのは私一人。

一気に孤独を感じてきた。

Мさんと姉ときたら妙に気が合っている風。やはり第一印象でМさん、姉属か?と疑っていた私は正しかったのだ。二人で「あんまり電車の音も聞こえない」とか「全然振動は感じないわね~」とか楽し気に語り合っている始末。まるで賃貸物件探している新婚カップルみたいだ。「でもさあ~」と小さい声で言っている私の声なんて二人には届かない。「ここの居間だったら電車も見えるし、お母さん、退屈しないわよ~」庭を見れば「あら、いいじゃな~い、桜まで咲いているじゃない!」「居間でお花見、こりゃ何より!」

「気に入った!ね?いいわよー、慣れるんじゃない?電車の音は。それ以外は静かだしさ~」

絶口調。で、何だかすっかり乗せられてしまった私もだんだんその気になり、「そうさねぇ…」と揺らいできた。

確かに素敵な雰囲気の家。「まあ、どうせ私は早朝から起きるしね、ローカル線だから最終電車は早いよね、線路沿いの人はすぐ音に慣れちゃうらしい」とあれこれエクスキュースを並べ始めた自分がいた。「いいんじゃない?ね?ね?」と姉。「奥の和室でしばらく寝そべってみたけど、振動も音も全然ないわよ~」ってさ、い、いつの間にそんな技?

(まあ、今思えば、そこでグースカ寝込まなかっただけでもヨシとしないといけないのかもしれないが…)

これで決まっちゃうのかあ…はぁ~、呆気ないものだなあ…ホントにこれでいいのかなぁ~と思い切り不安顔になる私。

「いいんじゃない?決めちゃえば?」と姉。「では明日お申込書をお持ちいたしますがよろしいでしょうか?」さすがのМさんも若干泳いでいる目で私の顔色を確かめる。

「は~い、お願いしま~す!ね?いいわよね?」と笑顔全開で私を見る姉。

彼女だけ自信満々。どこまでお気楽なんだか…

で、結果的にはこの物件は購入しなかったのだ。なんとМさん、翌日申込書は持参してこなかった(まさか本気で忘れたってことはなかろうが)。勢いで「いいね~」なんて調子よく買う気になっている人は、買わないってことがわかっているのだ、きっと。さすがプロ。そして姉ときたらあんなに張り切っていたのに、何の音沙汰もなく、しばらく経ってからこうのたまった。

「あら、そういや~あの物件、どうした~?あ、やめたの?そうよねえ、さっすがにねえ、いくら何でも線路際過ぎるわよね」っときたもんだ。

ぐわわわわ~!