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ナイスパフォーマンス~エレベーターガール編(後編)

2017.09.09

「上へ参りまぁ~す!」エレベーターガールになり切った姉は、とびきり上等な声を出し、これ以上気取れないというほど気取っている。

でも姉の背後に見えるのは便器。しかも当時の我が家のトイレは「和式」。上の方に四角いタンクが取り付けてあり、水を流すのにはそのタンクから垂れ下がっているチェーンのようなものを引っ張るという代物だ。何だか先っぽに縄跳びの持ち手のようなものがついていたっけ。

お世辞にもオシャレとはいえない空間。

私は姉と便器に挟まれた狭い空間に入り、姉の「何階ご利用ですかぁ?」に、いちいち答えなければならない。

しかもマンネリ化しないよう「5階お願いします」とか、「おもちゃ売り場は何階ですか?」とかこちらも幼い脳みそを駆使して工夫するのだ。

そういえば、へたくそな数字や上下を表す三角形マークが手書きされた紙切れが、トイレの蛍光灯のスイッチに貼ってあったような…とにかく、その手書きのスイッチを押す姉。

そういう動作もいちいち大げさで芝居がかっている。

細かいアレンジもある。例えば、沢山のお客様がエレベーターに乗ってきた、という想定。ちょっと困った顔をして私の方を振り返り、「恐れいります。少々奥へお繰り合わせください」なんて極めて気取って勝手なことを言うのだ。

「奥へって言われても~」と思いながらも言い返すなんてできなかった私は奥へ詰める。便器、金隠しの真横。(「金隠し」ご存知ですか?和式便器の前の方にあるカバーみたいな部分)うっかりすると、タンクから吊下がっているチェーンに頭や肩が触って、ブランブランと大きく揺れたりするから結構慎重に奥に詰めるのだ。それに、なんたって落ちたくない。便器に。

ま、そんな私の神経のすり減らし具合なんぞ夢にも思っていないお気楽な姉は絶好調の舌好調だった。

当然ながら私にはエレベーターガールの役は一度も回ってこなかった、と記憶している。

姉としては5回に1回くらいは妹に花を持たせるような…

これで便器に落ちていたら踏んだり蹴ったりだった。

しかしながら、スチュワーデスごっこ同様、楽しかったか、と問われれば…上下に動かないトイレの狭い空間に押し込められ、妙な神経を使いながらもそれなりに楽しかったような。

当時は飛行機よりもデパートの方が身近だったから、私の想像力もそれなりに働いて、洋服、おもちゃ、家具、食料品それぞれのフロアーが見えていたような気がする。エレベーターは紛れもなくトイレだし、ドアを何度開け閉めしてもトイレ内から見えているのは同じ子供部屋の風景なのに、8階建てのデパートに行った気になっていたのだから。私もちょろいものだ。でも、裏を返せば、姉のパフォーマンスが、そこそこ子供の想像力を養う遊びにはなっていたのだ…ちょっと悔しいが感謝しよう。

とにかく姉はスチュワーデスにしろ、エレベーターガールにしろ、人に注目されてパフォーマンスする仕事にあこがれていたのだ。

そう、チュチュをはいて客人の前で勝手に踊っていた、その頃から今まで、良くも悪くも全く変わっていない。

お姉さん、次のお誕生日に上等な白い手袋、プレゼントしよっか?いや、白だから、白寿まで持つか。待てよ、白寿って99歳じゃない。でも、その年になっても本気で喜んでパフォーマンスしそう。怖い。

次回に続く