思い込み人生パート1(読解問題 前編)
2017.07.29
読解問題 前編
こんなことがあった。当時小学校か中学生成りたて位の姉が、血相を変え息を弾ませて学校から帰ってきた。
「大変大変!あそこの小さい運送屋さん、若い人を千人も募集している!」
そしてまくしたてる。なんせ、喋るのは大得意だ。
「あんな小さい店なのに!千人も雇うなんてすごいわよね!」
街の小さな運送屋さんの株が彼女の中で急上昇、一気に東証一部上場。
まるで自分の事のように大喜びしている。単純この上ない。
その場に居合わせた祖父、母、私はしばらくの間あんぐり口を開けて聞いていたが、祖父が冷静にこう言った。
「万里子、それは若い人千人ではないよ、若干名だよ。」と。
「え?なにそれ?ジャッカンメイ?なにそれ?」あ、ちなみに彼女は国語が苦手である。
おそらく、「従業員募集 若干名」とでも書いてあったのだろう。
「従業員募集」が読めただけでも、素晴らしい。もしかしたらそこも読めなかったが勘のみで解釈したのかもしれない。いや、そうに違いない。
時効だから言うが、小学校~高校まで姉の作文の宿題はずっと父が代行していた。
遠足の感想文が「モミジがきれいだなって思いました」の一行だったのを見て父が顔面蒼白になったらしい。
高校の時、そのままエスカレーター式の大学に進むためには長文の論文を書かなければいけないと知り、三年生になって急遽音楽大学を受ける決心をしたくらいだ。
音楽大学を受ける動機も不純この上ない。
きっとその時は父に断られたのだ。どう考えても父も「論文」タイプじゃない。勿論姉は、長文と聞いただけで蕁麻疹が出そうなくらい苦手。
あ、ちなみに、自分の好き勝手にしゃべり、書くのは大得意。何か規制をかけられたり、規則の下で、というのが大いに苦手なので、要するに学校の「国語」は「大不得意」なのだ。
それに加え、ちょろ見、ちょろ聞きで思い込んだら一筋!というあっぱれな性格。読み方の難しい熟語なんぞははなっから読む気はなく、勝手に読むと決めている。
その運送屋さんは坂下の橋のたもとにある、軽トラック数台の小型荷物専門の小さい営業所だったように記憶している。そこに千人以上が来たら、応募の列が駅を通り越して隣の駅まで行っちゃうじゃない。それに、“若、千名”にしたところで、従業員募集の貼り紙に書く内容としてはいくらなんでも省略しすぎでしょう。ちょっと落ち着いて考えてみ?と、つい言いたくなる。
そして時代をさかのぼれば、さらに大笑いできる「はぁ~?」な読み違いが…
次週、後編に続く