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思い込み人生パート1(読解問題 後編)

2017.08.05

読解問題 後編

「従業員募集若干名」からさかのぼること数年。

我が家の郵便受けから郵便物を取ってきた姉は、

「おじいちゃん、おじいちゃん! おじいちゃんにすごい名前のひとから手紙が来た!」と大興奮。祖父宛てに来たハガキの差出人の名前を読んだらしい。

「ひゃあこさんだって!ひゃあこさん! すごい名前よね!」と。

「はぁ~?」「ひゃ、ひゃあこ?」

皆さん、もうお気づきですよね?ハガキの差出人は「ゆりこさん」。

それを彼女なりに巧みに読んでみせたのだ。

はぁ…「百合子」という名前の読み方がわからないにしても、「ひゃあこ」は違うだろう、「ひゃあこ」は無い、「ひゃあこ」だけはあり得ない、と4歳年下の私でも考える。

そして「おじいちゃん、この名前なんて読むの?」とつつましやかに聞くだろう。

しかし姉の場合、「百合子」と見たら自分の知っている漢字の読み方のみを駆使、もう「ひゃあこ」以外考えないのだ。それは彼女の中では決定!となり、すごく珍しい名前、すんごい名前の人発見!というところまで一気に駆けあがってしまう。

すんごい珍しい人はそう思い込む自分でしょうよっ、と突っ込みたくなる。

当時の姉に言わせれば、江ノ島近くお嬢様学校は「湘南しらひゃあ」、有名な女優さんは「吉永こひゃあ」である。恐ろしくふざけた名前だ。

そうそう、同級生の「服部さん」本人を目の前にして、「これでハットリと読むわけがない」と言い張り、服部さん本人が「私ハットリです」と主張しても、「まさかぁ、この字でどうやったらハットリと読めるのよ。ね?フクベさん」と断言していたそうな。納得のいかない読みはとことん拒否、あくまでも自分流なのだ。

とにかく現在に至るまでその手の思い込みは続いている。

 

そして、なんとその血は後世思いもよらぬところに飛んだ。

ごく最近の話であるが、従姉(正確には従兄の奥さん)が店に商品を注文したときの事。内容の変更を電話で店員に頼んだ際、その店員さんがこう言ったそうな。

「わかりました。そのうま、係の者に伝えます」と。

「馬?」と従姉はハテナマークいっぱいだったが、そのあと気付いた。「その旨(むね)」だということを。で、「今どきの若い子ってさぁ」って大笑いしたあと、「ねえねえ、」と自分の娘にその話をしたらしい。

すると大学生の娘は目を見開き心底びっくりして「ええ~?そのウマじゃないの?」と言ったそうな。

“そのうま”の話を姉にする勇気は…私にはない。確かに「旨い(うまい)」と読めるし…。「そのうまに決まってるっしょ!」と言われた時の私のショックは大きいもの。

「生蕎麦」とか「完遂」とか「凡例」、ちゃんと読めているかな。

かかしの事を「あんないこ」と言ってやしないか…これも聞く勇気はない。

しかし、考えてみれば「百合子」も「ひゃくあこ」としないところがミソである。

彼女なりに「ひゃあこ」とアレンジして楽しそうな明るい名前にしているところが心憎い。

まあ、ひゃあこさんなんて名前の友達がいたら、あんまり深刻な悩み事はしない方が賢明な感じはする。

言葉は時代と共に移り変わっていくもので、亜流だった読み方が本流になってしまうこともある。ゆり子がいつの日かひゃあ子になることもこの先……無い。無い無い。

60歳過ぎた今でも姉が自分流に読んで満足している漢字はまだまだあるに違いない。

次回に続く