過ぎたるは猶及ばざるが如し~振りすぎ(前編)
2017.11.25
一応姉は音大に在籍していた。あ、なぜ音大を選んだのかは確かお話した。
私にとって音楽大学というものは未知の世界なのだが、おそらく姉は動機からして異色の存在だったと思う。
動機を知らなくても出で立ちで既に異色だったに違いない。
私の音大のイメージは、お金持ちの子女が通っていて、ワンピースや、ちょうちん袖にフレアースカートみたいなものを着ている、みたいな。ちょうちん袖、これまた昭和な表現だった。パフスリーブ!
今時の音大はジーパン(あ、いけないいけない、ジーンズ?それとも尻上がりにデニム?)で通学したりしているのかな。
さて、音大には合唱の授業というものがあったそうだ。一人一人指揮棒を持たされて、合唱に合わせて指揮棒を振る練習もついでにするらしい。順番に一人ずつ前に出て、その他大勢は自分の席についたまま指揮棒を振る。怖い光景。
どういう訳か真面目に前の方の席でその授業を受けていた姉は、クラスの皆とエッサホイサと(この表現は合ってないような?)指揮棒を振り、歌っていた。本番さながらに音楽に酔いしれて感情を込めて振らなくてはいけない。
結構その気になるタイプの彼女は気持ちを入れて振りまくっていた。曲もサビに近づき大盛り上がりで。そして指揮棒を振り上げた瞬間、指揮棒は彼女の手から離れ、見事に弧を描いて教室の後ろに飛んで行った。
おそらく「ギャァー!」と声をあげたのは彼女自身で、他の生徒さんたちはきっと「あら、秦さんったらおてんばさん、おほほ」みたいな感じだったんじゃないか?買いかぶりすぎかなぁ?
一応姉に「ねぇねぇ、音大のクラスメイトってどんなだった?」と確認したところ、「皆すごいオシャレをしてお化粧もして、ブランド物でかためてキャンパスを歩いているから、先生だと思っていた人がクラスの中に何人もいてびっくりした」そうな。
教授には、おごそかに「指揮棒飛ばしは音楽大学始まって以来です」と言われたそうである。
必ず何か仕出かす。
振り過ぎと言えば、姉ならではの更に笑える話がある。
今は刈り上げヘアーなっているのでご存知ない方もいらっしゃるかもだが、姉は父のDNAをしっかり継ぎ、よくぞここまで綺麗にくりくりになると感心するほどの天然パーマ、学校には毎年「毛髪届」なるものの提出が必要だった位である。それは娘たちにもしっかり遺伝している。
ちなみに私は巻き毛ではなく「くせ毛」だ。長年カットをしてもらっている美容師さんには「性格出てるねー」とずーっと言われている。ふん。
姉は髪の毛を伸ばせば伸ばすほど、くりくりくりくりと綺麗に巻きが入ってくるから不思議だ。毎度高い代金を支払ってパーマをかけ、わざわざウエーブを作っている人たちにとっては垂涎の的なのだろうが、逆に姉は、一度でいいからストレートヘアーになってみたかったらしい。
もしかしたら、前に書いた「0さんのお姉さん話」が心に深く突き刺さっていたのかな。何でもないふりしてショックだったのかな。ま、無いな。
とにかく、ストレートヘアーになってみたいというという強い思いが、姉だからこそのトホホな結果を招くことになる。
次週、後篇に続く