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不動産騒動記その3(後編)

2018.09.22

不動産売買の契約日、姉の「おそろーい!」先制パンチの後は、書類にハンコを押したりサインをしたりの作業が淡々と続いていた。沈黙が最大の敵である姉はその間も話題を見つけてはちょこちょこと他の3人にちょっかいを出していた。こういう場面では、お馴染みМさんは自分の世界に入り込むタイプで、姉の事は意に介してないようだ。ま、そもそも気が合っているしねぇ。

仕事の出来る男Fさんは、生返事をしながら淡々と作業をこなしていたが、姉の

「毎日たっくさんハンコ押されるんでしょうねぇ」についに反応してしまった。

「そうですね、判を押すのが商売みたいなものでして」と。

直後、「あ!あぁぁ~!」とFさんの叫び声が部屋に轟いた。

そして、「はあ~」と深いため息をついた。なんとなんと、ハンコを押す場所を間違えたらしい。お気の毒に。出来る男、じつは冒頭の「おそろーい!」から姉にペースを乱されていたのだ。黙っていりゃいいのに姉は「あらまっ!大変!」とか言ってるし。あーたに言われたくないわよねぇ。やはり姉は周りを巻き込む人間なのだ。慣れている私でさえ、なんだかなぁー、と思っているうちに姉のペースに乗せられるのだから、初対面の人なんてあっという間に巻き込まれるに決まっている。

「私、仕事始めて今まで、何千、何万の書類に判を押してきましたが、間違えたのは初めてです」とFさん。きっと自分でもさぞかしびっくりだろうなぁ。がっくりと肩を落としている。

それまで“出来るビジネスマン”風に見えていたFさんが、ただのお兄ちゃんに見えてきた。まあ、これで、それまでの緊張が緩和されたのも事実であるが、全ての書類に記入し、めでたく契約手続きが終わった頃は私とFさんは疲れ果てていた。

姉とМさんは…元気。

そして最後にМさんの出番!

「秦さま~、本日はご契約誠に有り難うございました。つきましてはちょっとしたお土産を秦さまにご用意させていただきましたので、もう少しここでお待ちください」といそいそとそのブツを取りに行った。

姉も私も「なんだろ、菓子折?新居で使えるキッチングッズ?」なんて罰当たりなことをこそこそ話していたら、

「秦さま~ほんの少しなんですが家庭菜園でとれた新玉とトマト(17.不動産騒動記その2参照)でございます~」

おお、おおおーーーー!超意外性お土産!

大変有り難く、おいしく頂戴いたしました。本当に味が濃くて甘くて美味しかった!

でもつい考えちゃうのよねえ。あの日、会社のどこにあの野菜袋置いておいたのかなあ~。新玉プンプン臭ってOLに嫌われなかったかなあ、ってね。

ついでに、姉とМさんがもし夫婦だったらどんな生活だろう。きっと、端から見たら全く噛み合ってない会話をしていて、でも本人たちは納得、大満足、みたいな。うん、きっとそう。

きっとそうに違いない。

後記

夏休みボーナス編、お楽しみいただけましたでしょうか?
恐ろしいことに、姉はまだまだエピソード増産中です。

私はと言いますと、このエッセイを書きながら「私ってすごくまとも!」と超自己満足の日々でした。
何故かそんな私に向かって姉は、
「あ~たも相当変よ」と言い放ちます。あら?そう?

いやいやそんなことはないと思いますが、いずれ、そんな変な姉妹の「異星人ルーツ編」を書いてみようかと思っております。
両親のこと、そして祖父母のこと、これまた「はあ~?」な話題満載になること請け合いです。
また、そのとき読んでいただけたら幸いです